ベクトル〜再定義すると正比例になるの?
ベクトルの独立と従属
1.線形空間の要件
線形という言葉に違和感があります?
イメージがわきますか?
簡単にいうと線形というのは、比例のこと、
原点を通るまっすぐな点集合、平らな線(のあつまりとしての面)
ということです。
1個50円の品物をx個買うときの代金をy円としましょう。
すると、(個数、代金)の行ベクトルをならべると、
a=(1,50),b=(2,100),c=(3,150),d= (5,250),0=(0,0)などができますね。
a+b=cや、d=5a、0c=0などが言えます。
つまり、このデータ空間の中では、互いにたし算や定数倍ができ、零ベクトルを持ってます。
このようなデータ空間、とても当たり前に足し算とナントカ倍ができるのです。
しかし、1辺の長さがxの正方形の面積をyとするとどうでしょうか。
(一辺、面積)の行ベクトルをならべると、
a=(1,1), b=(2,4), c=(3,9),d=(5,25),0=(0,0)などができますね。
a+b=(3,5)は一辺と面積の関係の世界からはみ出します。5a=(5,5)もそうです。
かろうじて、0c=0だけは言えます。
たし算も定数倍も使えない関係の世界、空間だとわかります。
空間の中の各成分ごとの和の影響がちがっている、空間が歪んているということなのです。
なにしろ、ベクトルの和の法則、2ベクトルを辺とする対角線になる、が成り立たないのですから。
前者のように、空間の中の要素を自由にたし算、ナントカ倍しても、その空間の要素であり続ける。
空間が閉じているとき、空間のことを「線形」[linear]というんだ。
これを導入として、ベクトルの再定義をしてみましょう。
ベクトルを
公理と定理の関係性として、
空間(構造を持った集合)として
とらえることにチャレンジします。
実数R上の線形空間(ベクトル空間)とは、
次の定義要件と性質要件を満足する集合Vである。
(定義要件)集合Vについて、要素a,bについて、
①和 a + b は、Vの要素だ。
②スカラー倍 k a(kはRの要素)は、Vの要素だ。
(性質要件)
①和の性質(結合法則、交換法則、ただ1つの零元の存在、ただ1つの逆元の存在)
②スカラー倍の性質(1a = a , k( a + b) = ka + kb, ( k + l )a= ka + la, (kl)a=k(la) )
(例)実数Rを成分とする4次元ベクトルの集合R4は線形空間だ。
和もスカラー倍は各次元の成分の和やスカラー倍に落とし込める。
実数では和も定数倍も定義されるし、和の性質もスカラー倍の性質も満たすから。
2.要素のつながり(独立と従属)
要素のつながりは2色に分けられる。
そのためには線形結合を定義しよう。
各要素のスカラ倍の和を線形結合(1次結合)という。
命題P「実数R上の線形空間Vの4要素a,b,c,dについての線形結合が零元に等しい
pa+qb+rc+sd=0 」
命題Pが成り立つのがスカラーがすべて0のときに限るときa,b,c,dは線形独立という。
線形独立ならば、どの要素もほかの要素に依存した形(線形結合)で表現することはできない。
命題Pが成り立つのがスカラーがすべて0とは限らないときa,b,c,dは線形従属という。
線形従属ならば、ほかの要素に依存した形(線形結合)で表現できる要素が1つはある。
a,b,c,dが線形独立なだけでなく、Vのどの要素もa,b,c,dの線形結合で表すことができるとき、
a,b,c,dを線形空間Vの基底ベクトル、または、単に基底、基[base]という。
基底の数を空間Vの次元[dimension]と言い、dimVとかく。
(例)
たとえば、3つのベクトルa,b,cをうまく選ぶと、3次元空間R3のすべてのベクトルは
3ベクトルa,b,cの線形結合で表現できるから、a,b,cは基底だといえるね。
特に、空間のx軸、y軸、z軸の単位ベクトルe1,e2,e3は標準基底といったりする。
基底ベクトルはどちらにしても3つだから、次元数dim R3=3だ。
論点先取りのようだが、
結局dimは、
次元を「線形空間の線形独立のベクトルの最大数」として明確化したものだとも言えるね。
ここで、{たて、よこ、高さ、合計}={a,b,c,d}の4列の宅急便向けの寸法の行ベクトルを思い出そう。
たて、よこ、高さの1の単位ベクトルe1,e2,e3
を標準基底とすると、合計d=ae1+be2+ce3
このように、合計は3つのベクトルの線形結合で表せるから、
宅急便のベクトル空間は、4列あるが3次元のベクトル空間になる。
3.線形部分空間
線形空間Vの部分集合Wについて、
その要素たちが和とスカラー倍で閉じてWにおさまるときがあるね。
その場合、W自身が線形空間になっている。
(例)
たとえば、空間の中の平面、平面の中の直線などの部分は線形部分空間だね。
次は、
できる空間に着目するのではなく、それを作る独立な元に着目してみよう。
原点を通る直線は1つの方向ベクトルで作られる。
原点を通る平面は2つの独立なベクトルで生成される、張られる。
3Dの空間は3つの独立なベクトルで生成される。
このように線形空間を生成する独立な元を、生成元といい、生成される空間は、
張られる空間とも言いますね。
(例)
3つのベクトルで生成される部分空間Wを考える。
線形結合=零ベクトルの自明でない解があるとき、線形従属になる。
行列のランクが2なら2つのベクトルだけでWを張ることができる。
Wは原点を通る平面だね。
行列のランクが1なら1つのベクトルだけでWを張ることができる。
Wは原点を通る直線だね。
線形結合=零ベクトルの自明でない解がないなら、線形独立。
だから、Wは3次元空間と同一になる。
(例)
線形空間R3の元xで連立方程式
x +y -z =0
x +2y +z =0の
解空間Wは線形部分空間になる。
なぜなら、
係数行列A=
{{1, 1, -1}
{1, 2, 1}
A2←1(-1)
{{1, 1, -1}
{0, 1, 2}
A1←2(-1)
{{1, 0, -3}
{0, 1, 2}
だから、
x -3z =0
y +2z =0の
z=kとおくと、(x,y,z)=(3k -2k, k) (k∈R)
d=(3,-2,1)とおくと、
W={ x= kd ∈R3 | k∈R}とおける。
u,v ∈Wとすると、u=pd, v=qdとなるp,q∈Rがある。
u+v=(p+q)d ∈W
ru=rpd=(rp)d ∈W
特に、p=0のとき、u=0d=0 ∈W
だから、解空間WはR3の部分線形空間になる。
4.解空間の基底と次元
Rnの連立方程式の解空間Wの基底と次元を求めてみよう。
例えば、
x={x1,x2,x3,x4,x5}∈R5として、
A=
{{1, 0, 2, 0, -1},
{2, 1, 3, 0, -1},
{-1, 0, -2, 1, 3},
{0, 1, -1, 0, 1}}に対する解空間W={x|Ax=0}
A2←1(-2), A3←1
{{1, 0, 2, 0, -1}
{0, 1, -1, 0, 1},
{0 , 0, 0, 1, 2},
{0, 1, -1, 0, 1}}
A4←2(-1)
{{1, 0, 2, 0, -1}
{0, 1, -1, 0, 1},
{0 , 0, 0, 1, 2},
{0, 0, 0, 0, 0}}
n-rankA=5 - 3=2の自由度だから、Wは異なる2ベクトルが張る解空間。dimW=2
0でない行の主成分が1になるところは、他の成分で表現できるからとりあえずスルーする。
主成分がない列は左から3列,5列だから、x3=p, x5=qとおこう。
p,qを使って、最後の階段行列で、x1,x2,x4を表してみよう。
1行目: x1 +2p -q=0 から、x1=-2p +q
2行目: x2 -p +q=0 から、x2=p-q
3行目: x4 +2q =0 から、 x4=-2q
これから、
x= xはu,vで生成できる。
また、x=0となるのは、p=q=0に限るからu,v は1次独立(線形独立).
ここで、またまた、{たて、よこ、高さ、合計}={a,b,c,d}の4列の宅急便向けの寸法の行ベクトルを思い出そう。たて、よこ、高さの1の単位ベクトルe1,e2,e3を標準基底とすると、合計d=ae1+be2+ce3
このように、合計は3つのベクトルの線形結合で表せるから、
宅急便のベクトル空間は、4列あるが3次元のベクトル空間になったね。
このWという空間は成分が5列もあるけど、2つのベクトルを基底とすると、ただの2次元の平面上の
点になるということだね。
見かけ上の列数が5つあっても、つながり具合をさぐることで、
実は単純な仕組みになっていることがわかる
というのが線形代数の面白さだね!
5.線形空間(ベクトル空間)の拡張
線形空間・ベクトル空間の具体的なイメージを感じられるようになると、
そのイメージを抽象化することで、使える範囲を広げたくなる。
まず、使う数は、スカラーと呼んで、実数のことだとしていた。
その数は和とスカラー倍で閉じていればよかったね。
<スカラーの拡張>
実数のように四則計算が自由にできる数を体[number field, body, system]というね。
だから、実数[Real Number]は実数体ともいい、、Rとか表記することが多い。
他にも、複素数体もあり、C、 とか書く。
<ベクトルの拡張>
(例)
数ベクトルの空間は次元が3に限らず、n次元でもルール上はできるはずだね。
使う数の範囲をRとすると、n次元実ベクトル空間はRnとかこう。
n次元複素ベクトル空間はCnとかける。
(例)
多項式の係数だけ取り出してみよう。
2x2+3x+1は係数を並べて、[2,3,1]と、
x2 -5x+6は係数を並べて、[1,-5,6]とかける。
だから、多項式もベクトルの表示ができるし、和も定数倍でも閉じていることは自明だから、
多項式全体はベクトルになるね。
実数係数のn次の多項式のベクトル空間はR[x]nとかこう。
すると、3次多項式全体はR[x]3とかけるね。
(例)
また、区間(0,1)で連続な[Continuous]関数はたし算、定数倍をしても連続なままだから、
定義上はベクトルの要件を満たしているね。もちろん、この場合のベクトルの成分はイメージしにくいが、ルール上はOKだね。区間(a,b)で連続な関数全体はC(a,b)とかこう。
<線形部分空間>
線形空間(ベクトル空間)は
和とスカラー倍が閉じることが必要なだけでなく、0がないといけない。
この3条件で部分集合も線形(ベクトル)空間になるね。このとき、線形部分空間という。
(例)
W1={f(x)∈R[x]3 | f(1)=0, f(-1)=0}
・W1の要素z=0=0・xについて、z(1)=z(-1)=0となるからW1にzはある。
・W1の要素f,gについて、fもgも1と−1のとき0となる。(f+g)は1でも−1でも0+0=0で
条件にあうから、W1で閉じている。
・W1の要素fと、Rの要素kについて、(kf)(1)=kf(1)=k0=0, (kf)(-1)=kf(-1)=k0=0。kfはW1で閉じている。以上からW1は線形(ベクトル)空間の部分空間
(例)
W2={f(x)∈R[x]3 | f(1)=1}
・W2の要素z=0=0・xについて、z(1)=1が必要なのに、zはそれを満たさない。W2に0がない。
だから、W2は線形(ベクトル)空間の部分空間ではない。
<多項式の集合とランク>
3次の多項式全体R[x]3を考える。
その1次独立なベクトル[1,x,x2,x3]の一次結合で多項式を表してみよう。
たとえば、f(x)=3x2+x+1=1+x+3x2+0x3=[1,x,x2,x3]t{1,1,3,0}とかけるね。
かんたんのために行ベクトルで[1,1,3,0]かく。
こうしてあらわすことにして、5つの多項式の関係性をさぐってみよう。
とする。
行列Aを使ってまとめて書こう。
[1,x,x2,x3]A=0として、5つのベクトルの関係式を作ろう。
A=[p,q,r,s,t]={
{1,1,1,-2,-1},
{1,2,3,-4,-4},
{3,0,-3,1,7},
{0,-1,-2,-1,0}}
Aに掃き出し法を使い、簡単な階段行列にする。
→ 2,3行目に1行目の定数倍をたして1列目を0にする。
{{1,1,1,-2,-1},
{0,1,2,-2,-3},
{0,-3,-6,7,10},
{0,-1,-2,-1,0}}
→1,3,4行目に2行目の定数倍をたして2列目を0にする。
{{1,0,-1,0,2},
{0,1,2,-2,-3},
{0,0,0,1,1},
{0,0,0,-3,-3}}
→2,4行目に3行目の定数倍をたして4列目を0にする。
{{1,0,-1,0,2},
{0,1,2,0,-1},
{0,0,0,1,1},
{0,0,0,0,0}}=Bとしよう。
Bのランクは3だから、1次独立なベクトルは3つあるはずだね。
B=[a,b,c,d,e]
としよう。
だから、a,b,dは3つの1次独立なベクトルになるね。
cは(-1)a+2b,eは2a+(-1)b+1dと表現できるので、従属だ。
もとの多項式で確認する。
がa,b,c,d,eに対応している。
だから、p,q,sが1次独立なベクトルになるはず。
r=-p+2q=-[1,1,3,0]+2[1,2,0,-1]=[1,3,-3,-2]となる。
t=2p-q+s=2[1,1,3,0]-[1,2,0,-1]+[-2,-4,1,-1]=[-1,-4,7,0]となるね。