行列〜表のデータを取り出したもの
0.行列の積は、表の積
<行列って何?>
日常生活は、データに囲まれている。
仕事はもちろんのこと、
遊びでもデータの活用は大切だ。
ベクトルを並べると表ができる。表が行列だ。
だから、「行列の積は表の積」ということ。
これを身近な例で体験しよう。
さて、ある学校の文化祭で1組と2組は売店を出す計画を立てたとする。
販売予想はカレー、焼きそば、ラーメンの順に
1組={200,150,200}, 2組={100, 100, 300}(皿)だった。
たてに積むと表ができる。
販売予想表
{200,150,200},
{100,100,300}
価格は学校で統一することになり、2案ある。
カレー、焼きそば、ラーメンの順に
A案={300, 200,1000}, B案={400, 300, 800}(円)
たてに積むと表ができる。
価格案表
{300, 200,1000},
{400, 300, 800}
1組、2組のA案とB案での売上高の予想はどうなるでしょうか?
まずA案から、
1組は200✕300+150✕200+200✕1000=290000円
2組は100✕300+100✕200+300✕1000=350000円
まずB案から、
1組は200✕400+150✕300+200✕800=285000円
2組は100✕400+100✕300+300✕800=310000円
どちら組もA案の方が売上が大きいから、A案が支持されるだろう。
このような積算、積和は売上、予算、期待値、平均などいたるところで使われる。
売上予想行列Pは、品目順に3列、クラス順に2行。
価格案行列Qは、行と列を入れ替えると、案順に2列、品目順に3行になる。
これを対応する品目ごとに積算したのが、
クラス順に2行、案順に2列の計算結果行列R
つまり、Pは行ベクトルが2つ、Qは列ベクトルが2つ
内積は行ベクトル✕列ベクトルだから、
値は2✕2で4つ内積が出るね。
これが行列Pと行列Qのかけ算(行列R)を計算するイメージだ。
Pの横(行ベクトル)が3要素で、Qの縦(列ベクトル)が3要素だから、
内積が計算できたね。
だから、Pの横数(列数)=Qの縦数(行数)のときだけ、
行列PQの積が計算できるということだね。
<行列の和と差>
ここまでのイメージをもとにして、一般化、明確化を始めよう。
データがたて、よこに並んだものを行列,基盤[matrix]という。
たてよこ表のデータだけを抜き出したようなものだ。
表計算ソフトのように、項目名は取り扱わない。
そのデータを行列の成分,要素[component, element]ともいうね。
1行[row]だけのデータを行ベクトル、1列[column]だけのデータを行ベクトルともいう。
これは行列の特殊例だ。
行列は行ベクトルを1行以上ならべたか、列ベクトルを1列以上ならべたものともいえるね。
m行n列行列をm✕n行列とかくこともある。
行列Aのi行j列の位置にある要素をi,j成分とかaij と読んだり書いたりすることがあるね。
行列の和と差は同行列数、つまり同サイズの2つの行列の同じ位置の成分の和と差だ。
特に行列らしい特徴はない。
だから、どんな行列でも成分ごとの計算だから、通常の線形な法則が成り立つね。
・行列の和と差の性質
結合法則 A+(B+C)=(A+B)+C
交換法則 A+B=B+A
零元 A+O=A O+A=A
マイナス元 A+B=0ならB=ーA
定数倍の法則。k(A+B)=kA+kB
・行列はサイズを決めると、和で閉じていて、0元があり、逆元があるので、
加法で群になっていると言えるね。
<行列の積の一般化>
行列の積の一般化してみよう。
行列の積は、成分ごとの積ではない。
行列の積は行列ならではの定義になる。
なれないと複雑に感じる積の定義は、このあとに出てくる線形写像につながる。
行列が写像に対応すると、行列の積は写像の合成になる。
これがうまくいくために行列の積は定義されているとも言える。
行列の積A✕B=Cの計算の基本は内積だ。
行列のサイズによって、内積の回数と位置、つまりサイズがきまる。
Aの列サイズ=Bの行サイズ=nとしよう。
Aのi行目のn列ベクトル
ai=[ai1,ai2,....,ain],
Bのj列目のn行ベクトル
bj=
となり、Aのi行目の横(行ベクトル)とBのj列めの縦(列ベクトル)の
内積の値(積和、積算)をi行j列に並べたのが行列ABの積になる。
Cのi行j列目の内積値cij=ai・bj
1.行列の積のタイプ
<一番単純なのは行ベクトル✕列ベクトル>
内積は1つだけだ。
とすると、A={a1},B={b1}だから、A✕B= a1・b1
a1=[a11,a12,....,a1n]
b1= A✕B= a1・b1=a11b11+a12b21+....+a1nbn1
1行n列✕n行1列=行ベクトル✕列ベクトル(内積が1つ)
<次に簡単なのは、m行n列✕n行1列=m行1列>
A= 行ベクトルがm段
B={b1}だから、
AB=
Aのi 行ベクトルとBの1列ベクトルの内積をi行1列の値とする。
行列✕列ベクトル=m行1列ベクトル(内積がたてにm段並んでる。)
・同じように簡単なのは、
1行n列✕n行l列=1行l列。
A={a1},
B={b1,b2,.....,bl} 列ベクトルがl列
だから、
AB= { {a1・b1, a1・b2, ....,a1・bl}}
行ベクトル✕l列行列=1行l列ベクトル(内積が横にl列並んでる。)
<行列の積の一般と特徴>
m行n列✕n行l列=m行l列。
Aの列サイズ=Bの行サイズ=nなら、
m行行列✕l列行列=m行l列(行iはm以下、列jはl以下だから)
A= (行ベクトルがm段)
B={b1, b2,....., bl} (列ベクトルがl列)だから、
AB= ( タテにm段の内積がヨコにl列並んだ。)
<積の特徴>
・要素がすべて0の行列は零行列という。AO=OA=O。(可換)
O元 AO=OA=0
・正方行列(行数=列数)の場合、
行位置=列位置の値(対角成分aii)=1で、
それ以外aij(i≠j)=0を
単位行列という。E,Iなどかく。AE=EA=A(可換)
・行列は交換法則の成立を保証しない。しかし、結合、分配法則は成り立つ。
結合 ABC=(AB)C=A(BC)
線形性(分配) A(B+C)=AB+AC
線形性(定数倍) (kA)B=k(AB)=A(kB)・X,Yが零行列でないのに、XY=O行列になるX,Yを零因子という。
零因子がありうる。
2.転置行列の使い道
・転置行列tAはAの対角成分はそのままにして、行と列を入れ替えたもの。1行1列目はそのまま。
和差と定数倍についても転置は先でも後でも同じことだね。t[aij]=[aji]
t(tA)=A, t(A+B)=tA+tB, t(kA)= ktA,
しかし、行列の積はtを先にすると積の順番が逆になる。
t(AB)=tBtA
(確認)
A= (行ベクトルがm段)
B={b1, b2,....., bl} (列ベクトルがl列)だから、
AB= ( タテにm段の内積がヨコにl列並んだ。)
Aの列サイズ=Bの行サイズ=nなら、
Aのi 行ベクトルaiとBのj列ベクトルbjの内積ai・bjがABのi行j列の値だ。
この値がm行l列ならんだのがABだね。
だから、このai・bjがj行i列に移動すれば、t(AB)の各成分がl行m列にならぶ。
tBtAはt(n行l列)✕t(m行n列)=l行n列✕n行m列=l行m列になるね。
列ベクトルがl列あるBのj列目bjは、転置によってl行あるtBのj行目tbjになり、
行ベクトルがm行あるAのi行目aiは、転置によってm列あるtAのi列目taiになる。
だから、tBtAの中身は
tBのj行目ベクトルtbjとtAのi列目ベクトルtaiの内積tbj・tai=ai・bjがj行i列の値となった。
もともとはBのj列ベクトルとAのi行ベクトルの内積と同じ。
だから、全体のサイズも対応する成分も同じだね。
<対称、交代、直交、随伴>
・逆行列
AX=XA=EとなるXをAの逆行列といい、A-1とかく。
・対称行列
対角成分を軸にして、要素が線対称になる行列を対称行列という。
対称行列Aは、tA=Aとなる。要素はaij=ajiとなるね。
(例)
・交代行列
対角成分を軸にして、要素の正負が反転してる行列を交代行列という。
交代行列Bは、tB=-Bとなる。要素はaij=-ajiとなるね。
i=jのとき、aii=-aiiだから、対角成分aii=0だ。
(例)
・直交行列
転置行列tTが逆行列T-1になる行列を直交行列という。
直交行列Tは、tTT=TtT=E
(例)
A= , AtA=E
・随伴行列
複素数を成分とする正方行列があるとき、各成分を共役にして、転置したもの。
A= のようにスターなどをつける。
・ユニタリー行列
随伴行列A*が逆行列A-1になるもので、直交行列の複素数バージョンというところだね。
A=
ジョルダン標準形でもn乗
ジョルダンを分解してn乗しよう
ジョルダンと2項定理
3.行列のn乗
<正則と逆行列>
行列Aに対して行列式d=det(A)(Aの行列式)を求めたとき、
d≠0なら行列Aを正則[regular]行列という。
d=0なら行列Aを正則でないという。
正則行列Aは逆行列A−1をもつ。
(ちなみに、geogebraではA^-1と順に入力すると、A-1と表示されて、Aの逆行列を求めてくれる)
AA-1=Eとなる。
・2次の逆行列の公式
たとえば、A= のとき、A-1= (対角成分は交換、それ以外は符号反対)
・正則な正方行列でサイズが同じものは、乗法で群を作るね。
Eが単位元、A-1がAの逆元になる。
<ケーリー・ハミルトンの定理>
A= ならば、A2-(a+d)A+(ad-bc)E=O
(理由)
(A-aE)(A-dE)=
一方、分配法則から、(A-aE)(A-dE)=(A-aE)A-(A-aE)dE=A2-(a+d)A+adE
以上より、A2-(a+d)A+adE=bcEとなるから、A2-(a+b)A+(ad-bc)E=O
・さらに、k(A)=A2-(a+d)A+(ad-bc)E=OAが解α、βをもつとき、An= (理由)
解と係数の関係から、a+d=α+β、ad-bc=αβだから、
A2=(α+β)A-αβEとなる。式変形して、A2-αA=βA-αβE
つまり、A(A-αE)=β(A-αE)の漸化式がでる。
だから、An(A-αE)=βn(A-αE)。αとβの対称性からAn(A-βE)=αn(A-βE)
両辺の差は、An(βE--αE) = βn(A-αE) - αn(A-βE)
An(β-α)= (βn - αn)A + (αnβ- βnα)E
これをAnについて解けばよいね。
<逆行列と対角化>
対角行列A= のとき、An=
A= のとき、An=
A= のとき、An=
・AをPを使ってP-1AP=対角行列Bとできたら、Bnは対角成分をn乗したCになる。
(P-1AP)n=P-1AnP=Bn
An=PBnP-1
・対角成分がすべて同じで、それ以外の成分が0の行列をスカラー行列という。
スカラー行列もn乗しやすい。
・単位行列のn乗は単位行列だ。
<ジョルダン標準形>
・対角行列以外でもn乗しやすいものがある。それがジョルダン標準形だ。
対角成分xが等しく、左下三角が0、右上三角の対角成分が1なら
ジョルダン標準形という。ジョルダン標準形もn乗しやすい。
A=xE+Fとおくと、EがFに対して可換だから2項定理が使える。
F= {{0,1,0},
{0,0,1},
{0,0,0}},
F2={{0,0,1},
{0,0,0},
{0,0,0}},
F3=F4=....=O
An=(xE)n + nC1(xE)n-1F+ nC2(xE)n-2F2+nC3(xE)n-3F3+.....
=xnE + nxn-1F+n(n-1)/2xn-2F2
={{xn, nxn-1, n(n-1)/2 xn-2},
{0 , xn, nxn-1 },
{0 , 0 , xn }}