乗算器
様々な数値で加法ができることを確認しました。
次は、乗法ができるかどうか調べていきましょう。
まずは長さ(距離)同士の乗法です。
乗法の幾何的なイメージと言えば長方形の面積ですが、
乗法の結果として面積を渡されても、その先扱うことができません。
長さ同士の乗法で長さを得るには、どうすれば良いでしょうか。
ポイントは、三角比・相似です。
長さ a を、隣辺(斜辺出ない辺)が 1, a であるような直角三角形の、
長さ a の辺の対角 α に置き換えます。
つまり、tan α = a が成り立ちます。b と β についても同様です。
(角度 α は -π < α < π の範囲で tan α と一対一に対応し、
適切な方法で互いに変換することができます。)
その角度を、図のように組み合わせます。
一つ目の三角形はそのままですが、二つ目の三角形は、
相似を保ったまま長さ 1 だった辺が a となり、
b だった辺は相似比 1 : a の拡大によってabとなります。
これで、長さ ab が得られました。
あとは、これをリンケージで実現するだけです。
まずは、長さから角度を取る方法を解説します。
赤い点の動きは別の直線器によって緑点線上に制限されています。
そして、その点にさらにつながっているのが、以前も話した、
固定点が1つだけの直線器です。
このように、逆転器による直線器では、
「点が固定点2つを通る直線上を動く」性質より、
固定を1つ外すと、点と固定点の間の角度を取り出すことができるのです。
(他の直線器でも、工夫することで同じことができます。)
これを、角度抽出器と呼ぶことにします。
また、図の赤いリンクの方を動かせば、2つの直線の交点を得ることもできます。
これは、得た角度から三角形を組み直すのに利用できます。
角度抽出器で長さを角度に変え、
複写器でその角度を写し(βはさらに90度回転)、
直線器の組み合わせで三角形を組み直す。
以上の過程で、距離乗算器は完成します。
なお、距離を定数倍(拡大)するリンケージには、次のようなものがあります。
図は2倍する機構です。
次は角度の乗算器、といきたいところですが、
実は、それはどうやら不可能であるらしい、ということが分かっています。
詳しい理由は少し後に回して、次章では「抽出」について見ていきます。